半導体のPCN(製品変更通知)とは?5M1E変化点と対応試験の基礎知識

車載部品メーカーにとって、半導体の「PCN(製品変更通知)」や「EOL(生産終了)」への対応は重要な課題の一つです。特に同一の半導体が複数の製品に採用されているケースでは、変更に伴う評価試験の実施に多大な時間とコストが発生するため、情報収集と効率的な計画立案が大切になってきます。

そこで今回は、愛知県刈谷市にあるEMC試験サイト、デンケン中部センターの杉浦さんに、PCNの基本概念や対応の流れ、必要になりうる信頼性評価試験などについて教えていただきました。

[この記事でわかること]
・PCNとは何か?その発行理由と種類
・5M1E変化点とは?変化点の評価項目
・PCN発行時に必要となる信頼性試験の種類
・株式会社デンケン エレクトロニクス事業部で受託可能な試験項目

PCNとは? 製品変更通知の基礎知識

PCN(Product Change Notification)は、半導体メーカーが製品の設計変更を行う際に発行する「製品変更通知」のことです。半導体の製造プロセスや材料、仕様などが変更される場合に発行されます。

変更内容によっては、製品の特性や信頼性に影響を与える可能性があるため、変更後の製品が変更前と同等の性能を持つことを確認するための評価試験が必要になります。

PCNとPCIの違い

自動車技術会が制定する日本自動車規格「JASO」のTP(テクニカルペーパー:技術資料)では、半導体製品の変更通知を次の2種類に区分しています。

PCN(Product Change Notification):製品変更通知

  • 半導体製品の特性や信頼性に影響する可能性のある変更
  • 顧客の工程に影響する可能性のある変更
  • 製品仕様変更なし、外形/梱包図面一部変更の可能性あり

PCI(Product Change Information):製品変更情報

  • 半導体製品の特性や信頼性に影響せず、顧客の工程にも影響しない変更
  • 製品仕様変更なし、外形図面変更なし
  • 承認済PCNの後続製品への適用

このように、変更の程度や影響範囲によって通知の種類が分かれています。PCNは評価試験が必要となる重要な変更、PCIは評価試験が不要な軽微な変更といえます。

5M1E変化点とは?

PCNが発生する背景には、製造工程や材料などにおける「変化点」の存在があります。製造に関する何かが変わったポイントを「5M1E」で整理して、その変更内容に応じて評価試験を実施するかどうかを検討するのが一般的です。

変化点を整理する「5M1E」

5M1Eとは、製造に関わる6つの要素の頭文字を取ったものです。

  • Man(人):作業者の変更
  • Machine(機械):製造装置の変更
  • Material(材料):原材料の変更
  • Method(方法):製造方法の変更
  • Measurement(測定):検査方法の変更
  • Environment(環境):製造環境の変更

これらの要素のいずれかに変化が生じた場合、それが「変化点」となり、PCNの発行対象となる可能性があります。例えば、半導体のリードフレームのサイズが変わる、メッキのメーカーが変わる、製造ラインが別の場所に移転するなどの変更が該当します。

PCN発行時に必要となる評価試験

PCNが発行されると、変更内容に応じて評価試験を実施する必要があります。主に「信頼性試験」と呼ばれる一連の試験によって、変更後の製品が変更前と同等の性能・信頼性を持つことを確認します。

信頼性試験の種類

信頼性試験には約30項目あり、変更内容によって実施する試験が決まってきます。主な試験には次のようなものがあります。

  • 温度サイクル試験(TC:製品を高温と低温の間で繰り返し変化させ、温度変化に対する耐久性を評価
  • 高温高湿試験(TH:高温・高湿環境下での製品の耐久性を評価
  • 高温動作寿命試験(HTOL:高温環境下で長時間動作させ、製品の寿命を評価
  • EMC試験:電磁波の影響を与えない/受けないことを確認する試験

これらの試験は、実際の使用環境よりも過酷な条件で製品を評価することで、実使用時の信頼性を保証します。例えば、5年保証の製品であれば、5年分の環境変化を短期間で再現して耐久性を確認します。

そして、当コラムで紹介しているEMC試験は、これらの信頼性試験の一つという位置付けです。EMC試験では製品から発生する電磁ノイズや、外部からの電磁ノイズに対する耐性の評価を行いますが、PCN発行の全てのケースで必要というわけではありません。JASOのテクニカルペーパーにPCNの変更内容に応じて実施すべき試験が規定されているので、規定を確認しながら、必要な試験を判断していくことになります。

PCN対応の流れ

半導体メーカーからPCNが発行された場合、一般的には次のような流れで対応が進みます。

  1. PCN通知の受領(変更内容、スケジュールの確認)
  2. 変化点の評価(5M1Eに基づいた評価項目の洗い出し)
  3. 必要な評価試験の選定
  4. 試験の実施
  5. 結果の評価と等価性の判断
  6. PCN承認または追加対応

特に車載部品メーカーの場合は、PCN発生時に「変化点」「PCNエビデンス」「工程チェックリスト」などの資料を自動車メーカーから求められることが多く、必要な試験を実施して資料を揃えていくことが必要です。

デンケンで受託可能な試験項目

株式会社デンケンは、エレクトロニクス事業部の2拠点(大分県杵築市・愛知県刈谷市)で半導体のPCN対応に必要な各種信頼性試験を受託しています。ここで、デンケンで対応可能な信頼性試験の一部をご紹介します。

[デンケンエレクトロニクス事業部で受託可能な半導体の信頼性試験]

・高温保存試験(HTST)
・高温動作寿命試験(HTOL)
・高温高湿(TH)
・高温高湿通電試験(THB)
・温湿度サイクル試験(TH Cycle)
・イオンマイグレーション試験
・パワーサイクル試験(PCT)
・断続通電試験(IOL)
・パワーデバイスアナライザ(静特性)
・温度サイクル試験(TC)
・パワー温度サイクル試験(PTC)
・接合信頼性試験(BLR)
・液槽冷熱衝撃試験(TS)
・半田耐熱性試験(MS-Level)
・高温高湿バイアス超加速試験(HAST)
・高温高湿超加速試験
・Autoclave(uHAST)
・ESD試験(MM・HBM)
・ESD試験(CDM)
・ESD試験(Latch-up)

※JASOのテクニカルペーパーによる正式名称と略称の一覧を文末に参考資料として掲載しておりますのでご参照ください。

まとめ:半導体PCN対応に必要な評価と信頼性試験

半導体のPCNに対応するためには、変更内容を正確に把握し、適切な評価試験を選定・実施することが重要です。デンケンエレクトロニクス事業部ではPCN対応に必要な各種信頼性試験を受託しており、特に半導体EMC試験に強みを持っています。PCN対応でお困りの際はぜひご相談ください。

デンケン中部センター 試験日程表
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初回予約の方法

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教えてくれた人

デンケン中部センター 杉浦 貴紀
デンケン中部センターの杉浦です。このブログでは当サイトでの試験情報についてご紹介していきますのでよろしくお願いします。

この記事を書いた人

オフィスキートス新開ものづくりライター 新開 潤子  
製造業専門で執筆活動を行う「ものづくりライター」。ものづくりについて広く知識を持ち、ものづくり技術を言葉で表現して伝える活動を、愛知県を拠点に展開中。
  https://office-kiitos.biz/

参考資料 JASOテクニカルペーパー

*資料:PCN時の信頼性試験について、JASOテクニカルペーパーに記載の正式名称と略称

正式名称略称 
PrecontioningPCA1
Temperature Humidity Bias or biased HASTTHBA2
Autoclave or Unbiased HASTACA3
Temperature CyclingTCA4
Power Temperature CyclingPTCA5
High Temperature Storage LifeHTSLA6
High Temperature Operating LifeHTOLB1
Early Life Failure RateELFRB2
NVM Endurance, Data Retention, and Operational LifeEDRB3
Wire Bond ShearWBSC1
Wire Bond PullWBPC2
SolderabilitySDC3
Physical DimensionsPDC4
Solder Ball ShearSBSC5
Lead IntegrityLIC6
ElectromigrationEMD1
Time Depending Dielectric BreakdownTDDBD2
Hot Carrier InjectionHCID3
Negative Bias Temperature InstabilityNBTID4
Stress MigrationSMD5
Electronic Discharge
Human Body Model
HBME2
Electronic Discharge
Charged Device Model
CDME3
Latch upLUE4
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