EMC試験が必要な理由とは ~電磁波トラブル対策と半導体PCN対応に見る重要性~

私たちの身の回りには、スマートフォン、パソコン、家電製品、自動車など、様々な電子機器があふれています。これらの機器は便利な機能を提供する一方で、目に見えない「電磁波」を発生させています。この電磁波が他の機器に悪影響を与えたり、逆に外部からの電磁波の影響を受けて誤動作したりするケースが身近なところでも発生しています。

そこで今回は、愛知県刈谷市にあるEMC試験サイト「デンケン中部センター」の杉浦さんに、EMC試験が必要な理由について、実際のトラブル事例を交えて詳しく解説していただきました。特に半導体のPCN(製品変更通知)発生時における対応としても重要性が高まっているEMC試験の役割についても触れていきます。

【この記事でわかること】
・EMC(電磁両立性)とは何か
・電磁波トラブルの具体的な事例
・なぜEMC試験が必要なのか
・PCNとは ・PCNとEMC試験の関係

※EMC試験の基本概念については、こちらのコラム「初心者向け!EMC試験とは?」もあわせてご参照ください。

私たちの周りにあふれる「ノイズ」

私たちの生活環境には、さまざまなノイズ発生源が存在しています。ラジオ、携帯電話、ナビゲーション、無線機、レーダー、エンジンなど、これらの機器やシステムが電磁的に干渉し、相互に影響を及ぼし合っています。

【ノイズによる影響の例】
・ザザザッとノイズが入る雑音
・ネットワーク速度が遅くなってしまう通信遅延
・勝手に止まる・作動するなどの誤動作

EMCとは―電磁波の調和を図る技術

EMCは「Electromagnetic Compatibility(電磁両立性)」の略称で、「電磁的に両立する」という意味を持っています。簡単に言えば、電子機器が発する電磁波が他の機器に影響を与えないようにする、あるいは外部からの電磁波に影響されないようにするための技術や考え方のことです。

EMCは主に次の2つの観点で考えられています。

エミッション(Emission:放射) 機器から発生する不要な電磁波を制限すること。自分の機器から出る電磁波が他の機器に影響を与えないようにします。

イミュニティ(Immunity:耐性) 外部からの電磁波に対する耐性を確保すること。他の機器から発生する電磁波の影響を受けても正常に動作できるようにします。

この2つの観点からEMC(電磁両立性)を確保することで、複数の電子機器が同じ環境で共存できるようになります。

実際にあった電磁波トラブル事例

ここでEMC対策を講じられなかったために起きた事故の事例をひとつご紹介します。

エレベーター事故の例

東京都港区にある区営の特定公共賃貸住宅「シティハイツ竹芝」に設置されていたシンドラー社製エレベーター2基のうち1基で、自転車に乗ったまま乗降中だった都立小山台高校の生徒が扉が開いたまま突然上昇したエレベーターのかご部分と建物の天井との間に挟まれ折りたたまれて圧死する事故が発生した。 (出典:Wikipedia)*                          

この事故では、事故以前から「指示なしで勝手に動作」「急停止」「閉じ込め」などの動作不良が報告されていたそうですが、これらの症状は制御回路の電磁雑音脆弱性で再現が確認されました。専門家はシンドラー社による設計および出荷時のEMC対策が不十分だった可能性を指摘しているとのことです。

この事例からもわかるように、適切なEMC対策を講じないと、取り返しのつかない事故につながる恐れがあります。こうした悲劇を繰り返さないためにも、特に自動車、航空機、鉄道など人命に関わる可能性が高い分野では、EMC性能において厳しい規制・規格に基づいた試験が必要です。

PCNとEMC試験の関係

PCN(製品変更通知)とは

さて、半導体のPCNが発行されたときにも、EMC試験が必要になります。少し詳しく見てみましょう。

【PCNとは】 Product Change Notification=製品変更通知

PCNは、半導体メーカーが製造プロセスや材料、仕様などを変更する際に発行する通知のことです。製造場所や材料の変更が、製品の電磁波特性に影響を与える可能性があります。特に車載部品では一つの半導体が複数の製品に採用されているケースが多いため、PCN発生時には効率的な対応が求められます。

【PCN発生時の車載部品におけるEMC対応の課題】
・一つの半導体が複数の製品に採用されているケースが多い
・製品ごとにEMC試験をやり直すと膨大な時間とコストがかかる
・製品の市場投入スケジュールに影響を与える可能性がある

このような課題に対しては、半導体EMC試験が有効な解決策となります。半導体単体でEMC評価を行うことで、その半導体を使用しているすべての最終製品を個別に試験し直す必要がなくなります。半導体レベルで電磁波特性に問題がないことが確認できれば、最終製品レベルでの再試験を大幅に削減でき、時間とコストの節約につながります。

デンケン中部センターは、半導体EMC IEC/ISO17025 の認定試験場として、PCN発行時の半導体EMC試験にも対応しています。また、半導体メーカーとしての長年の知見から、対策も含めたEMC対応をサポートしています。

まとめ

この記事では、EMC試験の必要性とその背景、PCNとの関係について詳しく見てきました。私たちの身の回りには様々な電子機器があり、それらが発する電磁波が思わぬトラブルを引き起こすリスクがあります。特に人命に関わる分野では、厳格なEMC対策が不可欠です。

【EMC試験が必要な理由】
・私たちの周りには様々なノイズ発生源が存在している  
・EMCの不具合は人命に関わる重大な事故を引き起こすおそれがある
・特に自動車など人命に関わる製品では厳格な規格適合が求められる 

また、半導体のPCN(製品変更通知)発行時には、半導体EMC試験を活用することで、製品レベルの再試験を最小限に抑え、時間とコストを大幅に削減できます。

デンケン中部センターでは、車載EMC試験と半導体EMC試験の両方に対応する認定試験場として、お客様の製品安全とEMC対策をサポートしています。お気軽にご相談ください。

デンケンEMC試験所 試験日程表
https://www.dkn.co.jp/contact/
※2回目以降はオンライン予約も可能です

初回予約の方法

電話 0566-95-2170

お問合せはこちら https://dkn-emc.jp/top 

教えてくれた人

デンケン杉浦デンケン中部センター 杉浦 貴紀

デンケン中部センターで営業担当をしている杉浦です。このブログでは当サイトでの試験情報についてご紹介していきますのでよろしくお願いします。

この記事を書いた人

オフィスキートスものづくりライター 新開 潤子  

製造業専門で執筆活動を行う「ものづくりライター」。ものづくりについて広く知識を持ち、ものづくり技術を言葉で表現して伝える活動を、愛知県を拠点に展開中。   https://office-kiitos.biz/

*Wikipediaの記事「シンドラーエレベータ」を参照
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%BF

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